親族以外の事業承継の注意点
後継者選定に必要な情報開示
世界には相続税がない国があります。
その昔、多くの国では相続税が採用されていました。ところが第二次世界大戦以降、先進国を中心に、相続税を廃止する国が相次ぎました。効率的な徴税が難しいことや、多額の税収が見込めないこと、国民の反発が大きいことなどが理由です。現在ではオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スウェーデン、ノルウェー、シンガポール、香港、中国、インドなどで、相続税は廃止されています。また最大の経済国アメリカでは、相続税の基礎控除枠がおよそ15億円もあるため、ほとんどの米国人は、相続税を払っていないのが実情です。
一方で日本の場合、相続税の最高税率は55%(※)にもなり、世界でも最も負担率の高い国のひとつとなっています。そのため事業承継を考える上で、最も重要なファクターが相続税です。一定以上の資産を持つ経営者の場合、自分の財産を会社を含めたかたちで、子供に引き継がせることが、節税対策の上では合理的な方法となります。
※参照元:国税庁「No.4155 相続税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
具体的には事業承継を通じて、子供に資産を引き継がせることで、非課税対象枠が増えます。さらに事業承継に関連する損金算入によって、会社の評価額を低く見積もることが可能であるため、税率が抑えられます。
このように日本では高い相続税という制度的枠組みによって、自分の子供に会社を引き継がせようとするインセンティブが高くなる国であると言えるでしょう。もちろん諸外国でも親族承継は多く見られますが、日本の場合は後継者の適格性よりも、先代社長の税務上の理由が優先されやすい傾向があります。
親族以外の人物に会社を引き継ぐ場合は、相続税の計算において、不利になる可能性があることを認識しておきましょう。
必須と考えられる社内の調整作業とは
親族以外に事業を承継させる場合、相続税以外にも注意すべき点があります。それは社内での調整作業です。すでに社内で一目置かれている役員を後継者とする場合、社内の受け入れ態勢は比較的整いやすいと考えてよいでしょう。
ただし、外部取引先の役員や、いわゆるプロ経営者を招聘し、社長に据える場合には、社内からの反発が予想されます。とくに社内事情に詳しい古株の従業員や役員からは、自分たちがないがしろにされていると勘違いし、反発が予想されます。こうした無駄な軋轢を避けるためには長期にわたる慎重な計画が必要です。
まず、役員会で事業承継プランを共有し、数年後に外部人材を登用する方向性であることを確認します。できれば事業承継プランは社内従業員や取引銀行などにも公開し、コンセンサスを得ることで、承継後の連携を円滑にすることが可能です。その際には、会社の歴史や強みを理解し、残すべきものを見極めつつ、変革していくことを説明するべきでしょう。また後継者が社内や関係者に認められるためにも、後継者の実績やポテンシャルなどを、積極的にオープンすべきとも考えられます。

経営者が今現在行っている事業には「伝統」があります。その伝統的な商品とかサービス、技術に対して、イノベーションを加えることで今の時流に合ったものになり、価値が変わるのではないか。私はそういう思いがあり、事業承継問題に取り組んでいます。
親族以外に事業を承継したいと頭で考えてはいても、気軽に相談する相手がいないという経営者様は多いのではないでしょうか。相談相手を見極め、相談内容を壁打ちすることで考えがまとまる方もいらっしゃいます。ぜひお気軽にご相談ください。