【特集】事業承継の相談先「財務コンサル」とは
事業承継における財務コンサルの役割
いわゆる「財務コンサル」とは一般的に、企業財務のコンサルタントを指します。企業における重要な戦略である、財務戦略に関するアドバイスを提供する専門家です。
ここでは事業承継に取り組むにあたって、財務コンサルとはどのような役割を果たすのか、依頼することでどんなメリットが得られるかを詳しく調査しました。
1.財務戦略の策定
財務コンサルが担う業務のひとつが財務戦略の策定です。
事業を始めるには、お金が必要です。お金を生み出すためには、生産や投資や借り入れが必要です。まず最初に少額のキャッシュをつくり、それを有効活用し、レバレッジをかけて増やしていきます。資本市場におけるゲームのルールはこのように単純なのですが、企業の成長ステージによって採用されるべき財務戦略は異なります。
財務戦略を策定するには、企業の成長段階のほかにも、企業を取り巻くさまざまなファクターをひとつひとつ深く理解しておくことが必要です。
プロダクトに注目すると、以下のような例が挙げられます。

こうしたように、商品展開にかかわるマーケティングや製造コストなど、多くのことを勉強する必要があります。これらすべての事柄は企業の財務諸表に反映されますが、それを深堀りすることで現場で検討すべき因子が現れてきます。
2.キャッシュフロー最適化のサポート
企業が安定的に成長するためには、長期的な視点が欠かせません。財務コンサルは、企業の長期的な財務目標を設定し、その達成に向けた戦略策定を行います。具体的には、キャッシュフローの最適化や資金調達の方法などです。
企業は赤字では倒産しませんが、キャッシュフローが枯渇した時点で、倒産の危険性が増します。
企業におけるキャッシュフローとは、現金の入出金の流れを指します。キャッシュフローが潤沢であることは、企業全体の健全性や、成長性にとって、非常に重要な要素となります。とくに支払い時には、現金が必要です。キャッシュフローが健全であれば、支払いは問題ありませんが、キャッシュフローが悪化すると、支払い遅延が起こり、取引先や銀行との関係性にひびが入る恐れがあります。ひいては風評など事業の存続に危機が訪れることがあります。
支払いだけではなく、攻めの経営にも現金が必要です。成長のために投資を行う場合があります。設備投資であったり、優秀な人材を確保するための賃上げなど、投資には多額の資金が必要です。キャッシュフローが健全であれば、投資に必要な資金を調達することができます。また、キャッシュフローが潤沢であると、財務戦略に柔軟性が生まれます。配当を増やすことや自社株買い、債務返済などで株価を上げることができ、それがキャッシュフロー増加につながるという好循環が期待できます。
キャッシュフロー最適化は今ある事業の価値を最大化する、または倒産を防ぐ、新規事業を立ち上げると言った、事業承継の前段階にも重要なファクターとなります。以下では、それぞれの問題点からどのような解決策があるかをまとめています。合わせてご覧ください。
「見えざる資産」に大義を持つ
顧客のビジネス環境や業界動向、事業目標や課題を深く理解することで、最適なコンサルティングサービスを提供することができます。
企業活動の結果である決算書類は、数字が並んでいますが、財務コンサルの仕事には、数値化しにくい、いいかえると人間としての価値観や倫理観などへの理解が必須となります。とくに事業承継の際の財務戦略では、先代経営者の想いや社是、社内文化、経営哲学なども考慮すべきポイントとなります。
企業の経営方針と財務は、密接に関係しています。企業が追求する価値観やビジョン、ミッションなど、企業経営の指針となるものがあります。これらは経営陣が構想したものなので、経営者自身の人生観や仕事観などが、強く反映されていると考えられます。財務管理を行う場合には、直接関係がないように見えますが、事業承継を考える際には、経営者が望む出口戦略を考慮する必要があるのです。経営者が何を大切にしているかを考えることで、事業承継の着地点が見えてくることがあります。
見えざる資産における考え方の一例
例えば、社会的責任を重視する企業は、利益追求と同時に社会的価値の創造、つまり会社が社会に役立つ存在でありたい、と希求する傾向があります。環境保護を重視する企業は、その取り組みを積極的にアピールすることで、顧客からの支持や認知度の向上を目指します。その結果として、企業哲学は企業価値やブランドイメージの向上にも、重要な役割を果たします。財務面においては、環境投資やフィランソロフィ―予算、SDGsの実現など、社会的責務を重視した予算措置が取られます。もちろん、企業哲学は業績にも影響を与えることがあります。
例えば、企業が従業員の福利厚生を重視する場合、そのためにコストがかかり、財務の自由度を圧迫しますが、従業員のモチベーション向上や、社会的評価が高まることで人材採用が容易になるなど、企業の業績に良い影響も与えます。
さらに、企業の経営方針は、企業価値やブランドイメージにも影響を与えます。見える資産と見えざる資産を合わせたものが、会社の市場価値だと考えると、財務コンサルには数字だけではなく、企業哲学も考慮した戦略策定が求められるのです。
以上のように、企業の哲学と財務は、企業が採る経営方針や業績に密接に関係しています。視点を変えると、自社の哲学を明確にし、その哲学に基づいた、財務戦略や経営方針を採用することで、企業価値や業績の向上につなげることができます。
事業承継で重要となる「事前準備」
事業承継までの期間が十分ある場合においても、事前に準備をすべきことは、たくさんあります。いつどのように承継をしたいかという、経営者の想いを、余裕をもって従業員に明確に伝えることで、社内の賛同を得たうえで、事業承継への準備を進めることができます。
社内を巻き込むことで、事業承継の準備期間を通じて、組織としての改革が期待できます。ただ、社内へのアナウンスは社長ができるとしても、承継にかかわる財務戦略や株式分配などのテクニカルな説明は難しいものです。
コーディネートリーダーとしての役割「財務コンサル」
そこで社長の補佐役として最適なのが、財務コンサルの存在です。財務コンサルは、依頼人に財務アドバイザリーを提供することで報酬を得ます。この場合、依頼人の利益が最優先とされます。銀行のように自社の商品を販売したり、M&A仲介のように、企業売却を企図することはありません。
財務コンサルは財務戦略を基本に、経営全般を見渡したアドバイスを行います。前職として銀行員や、中小企業診断士、ファイナンシャルプランナーなどを経験されているケースが多く、財務コンサルがリーダーとなることで、事業承継実施に必要な税理士、弁護士、銀行、不動産業者、保険会社などのコーディネートを実現できます。
また事業承継の際には、親族間の意見調整や、役員への説明なども行います。親族同士の話し合いは、感情的にもつれることもあるため、第三者が入る方がスムーズな場合があります。 財務コンサルが介入することで第三者の立場から、しがらみ抜きで関係者の調整が可能です。もちろん小規模事業者の場合は事業承継が簡素化できるため、財務コンサルのみで承継が完了することも期待できると言えます。
事業承継の問題とは
最近は、事業を自分の代で終えようと考えている経営者から、廃業の手続きや、相続税の相談を受けることが多くなりました。私から見ると、あと100年は続く事業なのにもったいない、と感じることがよくあります。
事業承継は単に、先代社長から後継者に経営を引き継ぐだけではありません。新しい時代に対応可能な、骨太の経営へと脱皮するチャンスと捉えることで、事業承継を企業改革戦略として考えたいものです。