財務コンサルと投資ファンドの違い
投資ファンドを知るための基礎知識
世界大手の「ブラックストーン」から見る投資ファンドとは
投資ファンドの概要をご紹介するために、世界最大級の投資ファンドである、米国企業「ブラックストーン(Blackstone)」を代表例として解説します。
世界の中位国の国家予算並みの、運用金額を誇る「ブラックストーン」。不動産、プライベートエクイティ、クレジットなどの事業分野で、資産運用をしており、世界中の企業や不動産に投資しています。
基本的には割安とされている企業を買って、数年間企業を経営し、株価を高くして売却、あるいは株式公開する、というスキームです。不動産投資の場合には割安になるよう、バルクで一旦購入し、分割して高値で売却を図ることが多いです。
ブラックストーンの、最も成功した取引とされているのは、ヒルトンホテルの買収劇です。2007年に、業績が低迷していたホテルチェーン「ヒルトンワールドワイド」を260億ドルで購入しました。260億ドルのうち、65億ドルをブラックストーンの自己資金でまかない、残りは銀行団からの借入金でした。
買収後は、棄損していたヒルトンホテルのブランドイメージを、多額の広告予算を投じて、洗練されたものにイメージアップしたり、老朽化した施設をリノベーションしたりするなど、マーケティングを抜本的に見直しました。この結果、ヒルトンホテルの収益性は、大幅に回復したのです。買収から6年後の2013年、ブラックストーンはニューヨーク証券取引所(NYSE)にヒルトンを上場させました。これによりブラックストーンは自社投資額の5倍の利益を得たと言われています。
投資ファンドの課題
投資ファンドにとって、事業を進めるためには、資金調達が最重要課題となります。例に出したヒルトンホテルのケースでも、国際的な銀行シンジケートを組成しましたが、融資を引き出すためには、銀行団が納得できる綿密な事業計画や戦略策定が求められます。
このように投資ファンドが行う事業は、企業の買収とその後のエクジット戦略がメインとなります。したがって事業承継分野においては、経営者が投資ファンドに企業売却(M&A)をおこなうことで、企業をさらに成長させ、最終的にはバイアウトかIPOをすることが期待できるケースに限られます。
投資ファンドの目的
投資ファンドの目的は「安く買って高く売ること」。つまり売却企業の情報を得るために、投資ファンドの世界で名前を売って、信用力をつけ、世の中に出回っていない情報を取得することが大切です。まだ誰も気づいていない投資先企業をネームアップし、財務諸表や事業計画、競合情報、市場動向、現経営陣(マネジメントチーム)などの情報を収集・分析します。ここでいう分析とは、リスク評価とも言えます。投資先企業とビジネス環境のリスクを評価し、投資先企業が将来的に、収益を生み出すことができるかどうかを判断します。投資先企業が市場平均よりも、不当に低評価されていることが必要です。また、期間設定も明確化しておく必要があります。投資とリターンとを計算し、何年間経営し、どのくらい企業価値を向上させるのが最も経済効率性が高いのかを算出します。
投資ファンドのメリット
企業の市場価値を向上させる
例えば、ある企業の経営者が、市場環境は良いものの、何らかの理由で企業が成長できないと感じている場合には、事業承継以外にも、プロの経営者である投資ファンドに株式を売却するケースが考えられます。先代経営者は少数株主となり、投資ファンドから派遣された経営陣がステアリングコミッティーを組成し、経営することになります。当然先代は経営からは距離を置くことになります。ただ、数年後に事業が好転し、上場に至った場合、たとえ数%の残り株でも、多額の上場益が見込めます。
投資ファンドのデメリット
必ずしも事業承継向きではない
投資ファンドへの売却にも、デメリットがあります。まず、投資ファンドが目論むのは「安く仕入れて高く売る」ことなので、市場価格よりも安い金額で売却を求められるケースがあります。また、最終的に上場をめざすため、投資ファンドが買収するのは、一定以上の事業規模がある会社に限られます。
投資ファンドは、購入した会社の市場価値を高めることを、目的としているので、本来の意味での事業承継には適していません。日本は証券市場への上場のハードルが高く、外形基準として、中小企業では上場が難しいため、投資ファンドにとって中小企業を購入し、価値を高めた後で売り逃げることは、難易度が高いと考えられます。
投資ファンドは財務コンサルとどう違う?
投資ファンドによるM&Aのあとは、会社の役員はほとんど入れ替わります。ただ、従業員は継続雇用されることのほうが多いようです。とくに役員の下のマネージャークラスでは、給与が上がるケースもあります。スリム化した組織にあって、社員と経営層の間で意思疎通をする役割を担ってもらうために、中堅マネージャーにある程度の権限を与えられ、その責任に伴い、給与が上がるということです。
そのため、経営者が変わっても、契約さえしっかり合意できていれば、従業員から大きな反発もなく、スライドさせることが可能です。
一方財務コンサルは、投資ファンドのように企業を高値で売却することが目的ではありません。むしろ長期的な視点に立って、経営者の想いに沿った形での事業承継を実現することを目的としています。
価値を考えるメディア
財務コンサルとは、財務に関するサポートはもちろん、事業承継問題においても企業を総括的に捉え理解した上で、その企業の最適解を提供しています。企業にとって中長期的な戦略が期待できる存在こそ「財務コンサル」と言えます。
当メディアでは、会社を継がせるべきか、会社を継ぐべきか、経営者・後継者それぞれの抱える事業承継問題に対し、財務コンサル鹿島氏に取材協力を依頼。まだ決めきれない事業承継の第一歩、踏み出してみませんか。