【第2回対談:社長の本音を探る】建設業界の事業承継問題
事業承継問題において、事業を継いだ方の声や継がせる方の声を直接聞く機会は少ないのではないでしょうか。
そこで当メディアでは、財務コンサルタント鹿島氏との対談形式による、事業承継インタビューを実現しました。

第2回目は、アスベスト除去、ダイオキシン除去を中心に建築・解体・塗装工事などの建設事業を展開する日本トリート株式会社の臼井社長にお話を伺いました。
創業は先先代で大正14年。個人の塗装工事業として事業を開始し、先代(現社長のお父様)が昭和37年に法人化。現臼井社長が三代目となる企業です。
会社を継ぐことになったきっかけとは

高校生の頃から継ぐものだと思っていました
株式会社AIMM 財務コンサルタント 鹿島氏(以下、鹿島) 臼井社長は今三代目…?ですかね?
日本トリート株式会社 代表取締役社長 臼井氏(以下、臼井)
創業のところから考えると三代目になります。初代の方との血のつながりはなく、一代目から私の父が引き継いで、そこからの三代目です。
血縁関係だけでいうと、二代目三代目が父と子という関係です。
鹿島
だから最初小川塗装工業なのですね。創業の大正14年から見ると100年くらい経つんですね。お父様の代から引き継いだのが平成19年。
元々会社は引き継ぐつもりだったのでしょうか?
臼井
そうですね。私は父が遅くにできた子供で、成人するころには父は60歳を過ぎておりました。
大学卒業するときはもう引き継ぐこと前提になっていて、他の会社に就職もせずに父の会社に入社したんです。
一般的に、二代目とか三代目とかだと、近い業種の企業に就職をして修業する、外を見るというパターンもあると思いますが、私の場合は右も左もわからない状態で入社してしまったという感じでした。
鹿島 社会人になる前から、お父様の会社を継ぐもんだと思っていらっしゃったのでしょうか?
臼井
はい。父も思ってましたし、私自身もそう思ってました。
具体的に考え始めたのは…高校生ぐらいの時ですかね。春休みとか冬休みとか、長期の休みの時に父の会社でアルバイトしていたので。
元々塗装屋だった時代から、住まいの階下がペンキ倉庫だったんです。自分の育ってきた環境がそんな感じだったので、子供のころからなんとなく無意識に感じていたような気がします。
子供には同じ苦労をさせたくないと思っています
鹿島 家族内だと、とくにきっかけがあったというわけでもないんですかね。
臼井
昭和世代のひとたちはそういう考えが強いかもしれません。
私は息子が3人、娘が1人いますけど、今の仕事を子供たちに継いでもらいたいという気持ちはないんです。逆にあんまり同じような苦労させたくないな、と。なので、自分の人生は自分で決めろという話をしたりしていまいすね。
というのも、現在弊社の役員に私の兄弟がおります。自分が会社をやってるときはいいのですが、そこから先のことを考えたとき、一般社員の目もありますし、子供世代が親族経営でうまくやっていけるのかと考えると、身内で揉めるようなことはしたくないなと思うんです。
ですので、一般社員を上にあげて、血を薄めていって、最終的には頑張ってくれた人たちのカラーにしていければいいなと考えています。
会社を継いで苦労したこと
自分がお客さんと一から関係を構築しないといけない
鹿島 臼井社長ご自身が会社を引き継いだころ、年代的なギャップもあったと思いますが、どんなことに苦労しましたか?
臼井
先代の派閥のようなものがありました。
派閥が抜けると売り上げがなくなってしまうので、僕の中では一番大変な出来事でした。
鹿島 どうやって乗り越えてこられたんですか?
臼井
とりあえず頭を下げまくりました。と当時に、自分がお客さんと関係を構築して「大丈夫だ」と言える会社にしないとと、身をもって感じた瞬間でもあったんです。
そこから、営業活動もゼロから始めてお客さんを開拓しつつ、売り上げを上げていったことが自分の自信になりました。
不安はあったけど、もうやるしかない
鹿島 代替わりで社長を引き継いだときはどんな心境でしたか?
臼井
「…は?」って感じでした(笑)。
でもいずれはやらなきゃいけないとわかってたので、不安はあったけど、もうやるしかないな、と。
準備して少しずつバトンタッチできるようにすればよかったのですが、私の場合は父の体調の問題があったため急な代替えだったんです。極端な話、来月からお前が会社をやれ、みたいな(笑)。
また、私が社長に就任したとき、会長職として父に残ってもらったんですが、派閥からの声もありましたので、父がいないほうがバランスが取れるんじゃないかと思い、会長職を退任してもらいました。ある意味、自分がちゃんとやるからお願いします、というやり方が正解だと思っていたんです。そうしないとだめだろうなと。
余裕を持って選択肢を考えるという判断能力がなかったんです。
鹿島 お父様の力を頼ってしまう、という人もいると思いますが、退任してもらってでも自分がやると決めたのはすごいですね。
臼井
実をいうと後悔してます(笑)。
自分より上の世代、仕事中心の生活で頑張ってきた人から仕事は取り上げるべきじゃなかったのかなと思います。
当時はそれしかないと思っていたのですが、今となってはもっといい方法があったんじゃないかなという思いがありますね。
役員に身内がいることが心の支えになっています
鹿島 社長になって経営を任されたとき、近くに相談相手はいましたか?
臼井
相談相手はとくにはいなかったですね。
私の場合、会社に身内がおりますので、具体的なことを話さなくても阿吽の呼吸でやってこれた面があるのかもしれません。
他人だけという状況よりは、心の支えになっているように思えます。
鹿島 そういう苦労をしてきたから息子さんには継ぐことは進めないと?
臼井
そうですね。
仕事してると兄弟でもぶつかることはあるんです。自分の息子世代が会社に入ってきたとき、社長は誰がやるんだという問題も発生しますし、例えばもっと先、二世代先の会社を考えたとき、その時よりもさらにぐちゃぐちゃになっても嫌だなと思ったんです。
長男が小学生のころは会社を継ぐ…みたいな話もちらっと出たんですが、でも今頑張っている若い社員たちが活躍できるような会社にしてあげないと、会社の発展にはつながらないんじゃないかと。今後さらに少子高齢化が進んで若手の人材確保が難しい中、誰でも上に昇格出来て家族経営だけじゃないと示すことも必要なのかなと感じています。
父と子の関係について
昔から憧れていた部分はあったのかもしれません
鹿島 お父さんが現役でやられていた頃はどんな印象でした?
臼井
自宅であまり仕事のことを話さなかったのと、他に違うこともよくやってたんです。なので今の会社の実務をやってるイメージはあまりなくて。
政治家の方々とお付き合いをして講演会のお手伝いをしたりとか。この人何をやってるのかなと思っていました(笑)。
鹿島 活動的だったんですね。自分もいずれはそうなるんだろうなと感じていた部分はありました?
臼井 憧れていた部分はあったのかもしれません。
会社経営は子育てに近い感覚がある
鹿島 今社長になられて15年目というお話ですが、今だからこそ言えるお父様への一言みたいなものはありますか?
臼井
父は6年前に他界しているんですが、とにかくすごいな、と思いますね。
私なんかは身内に救われてますが、先代は法人格にして、まったくの他人と仕事をして大きくしていったので。自分だけでやってきたというのはマネできないことだからすごいなと実感しています。今でもいろんな局面にあると、頭の中で父のことを思い出すことがあります。
そう考えると…ちょっと子育てにも似てるかもしれません。
子育てしてふと思ったとき、親もこういう気持ちだったのかな、と。その感覚に近いものがあります。
今後のビジョンについて
M&A経験を経ていろんなことを考えさせられました
鹿島 今後のビジョンがあれば教えてください。
臼井 実は先日M&Aで同業者と資本提携したんです。後継者が不在という中で、売らざるを得なかった会社を吸収するという判断をしました。このタイミングで、親族内承継とはまた違った事業承継を体験しています。
その会社が何をやってきたのかを見ると、今うちの会社にも足りないものがたくさんあって。これから10年20年先、もしかしたら弊社もこういうことになることがあるなと思うと勉強になりますね。
前代表と経営側の人間と、雇用される人と全員と面談していて、そうせざるを得なかったという現状があって。自社に置き換えて考えたとき、今までの10年とこれからの10年を照らし合わせて、本当にいろんなことを考えさせられるいいきっかけになったなと思います。
鹿島 めぐり合わせというか。次のステージに行くステップなんですね。
臼井 だと、私は思っています。
事業承継には「準備」が大事ですね
鹿島 最後に、今後同じように代替わりで親から引き継ぐような方にどんなメッセージを送りたいですか?
臼井
大それたこと言えませんが、とにかく準備が大事、という点ですね。
会社には歴史があって、会社ごとに社員の性格も社風も異なります。企業とは、つまり「人」なので、従業員が安心できるようなものを準備していく必要があるなと思います。
準備するというのは、いい意味で会社を変えていきながら、整った状態で世代交代をすべきなんだろうな、と経験の中で感じました。
鹿島
変えていくというのは大事かもしれませんね。
本日は素晴らしいお話、ありがとうございました!

元々親御さんがやっている事業や会社には「伝統」があります。その伝統的な商品とかサービス、技術に対して、イノベーションを加えることで今の時流に合ったものになり、価値が変わるのではないか。私はそういう思いがあり、今のこの業務に従事しています。
まだ、親御さんの会社を継ぐか継がないかを決めかねている後継者様も、壁打ちすることで考えがまとまる方もいらっしゃいます。ぜひお気軽にご相談ください。