【第3回対談:社長の本音を探る】介護業界の事業承継問題

事業承継問題において、事業を継いだ方の声や継がせる方の声を直接聞く機会は少ないのではないでしょうか。

そこで当メディアでは、財務コンサルタント鹿島氏との対談形式による、事業承継インタビューを実現しました。

クオレHP
引用元HP:株式会社クオレ公式サイト https://www.cuores.com/

第3回目は、介護・看護・薬局事業を展開する株式会社クオレの鈴木社長にお話を伺いました。

現会長の辻本氏が創業した株式会社クオレ。鈴木氏は2022年6月に社長に就任。

2022年4月1日には創業25年周を迎え、令和4年6月1日時点で28事業所を展開しています。


株式会社クオレ
公式サイト

会社を継ぐことになったきっかけとは

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登録ヘルパーからのスタート

株式会社AIMM 財務コンサルタント 鹿島氏(以下、鹿島) 鈴木社長は2022年の6月に社長を引き継いだと伺いました。その前まではどのような役割を経て社長に就任されたのでしょうか。

株式会社クオレ 取締役社長 鈴木氏(以下、鈴木) 株式会社クオレは介護・看護・薬局事業をやっているんですが、その中でも私は介護をやっていました。

いわゆる登録ヘルパーでパートでした。そこから事業所の管理者になり、エリアを任されることになったあと、当時の常務がご病気だということで、当時の社長(現会長)からお声がかかりまして異動することになったんです。

私はプレイヤーだったので、経営は全くわかりませんし、デスクワークともほど遠い。子育てをしている主婦が一事業者を任されてエリアを任されている、というところから始まっています。

「自分ができることはやってみよう」という思い

鹿島 社長やってといわれたときはどういう気持ちだったのでしょうか?

鈴木 最初は何事かわかりませんでしたね(笑)。
経緯をお話しますと、今から4~5年前、2018年ごろに「本部に上がってきてほしい(=役員になってほしい)」と声がかかりまして。私が登録ヘルパーで働いているときの事業所の管理者が現副会長なのですが、その方に相談しました。
私は経営のことについて全くわかりませんので不安はありました。ただ、自分がやることで常務や会長を支えられるのではないか、だったら自分ができることはやってみようと思って「行きます!」と答えました。

現場スタッフに本部に行く話をしたところ、「帰ってこなくていいから行ってこい!」と力強い言葉をいただいて(笑)。
それから、執行役員、取締役をやり、今まで知らないデイサービス、有料施設、ケアマネージャーの業務、配食事業の現場や薬局の現場など、会社全体を見る機会をいただいたことで、必然的に物の見方・捉え方が変わってきたように思います。

役員の中で私が一番若かったからじゃないかと思います(笑)

鹿島 なかなかできる決断ではないですよね。
ご自身では、どういった点が社長に指名された理由だと思っていますか?

鈴木 クオレはもともと男性が今の会長おひとりで、取締役は全員現場上がりの女性なんです。
その中で、たまたま私が一番若かったというところじゃないでしょうか(笑)。平均年齢が50歳オーバー。会長も50代でクオレを創業しています。
もし社長を譲るのであれば、1年でも長くこの役職に座れる人というのも考えのひとつにあったのじゃないかと思います。

鹿島 年齢だけで選ぶわけではないと思いますが(笑)、会長はそういう素質を見抜いてらっしゃったんですね。
役員はみなさん現場上がりの方なんですか?

鈴木 そうなんです。介護士や看護師など。経営陣は一人もいないんです。

継ぐことになってから苦労したこと

どうやって自分自身が人とつながっていくか

鹿島 社長になってから約1年が経ちますが、一番苦労したな…というエピソードは何かありますか?

鈴木 現在もまだ会長に教えていただきながら仕事をしていますが、会長はカリスマ性があって、創業してから10年もたたないうちに28事業所を一人で立ち上げてきたんです。弊社には資産というものはほとんどなく、事業所の建物も持ちビルではありません。そういう意味でいうと、人とのつながりで会社が経営できているので、資産は人になります。
でも、私には積み上げてきた人とのつながりがない状態なんです。それを今からどうやって人とのつながりを構築してこの会社を経営していくのか、というところが一番の悩みかもしれません。
今までは、会長がいたから、会長の人となりで創り上げてきた会社ですが、今の私には信頼関係は全くない状態です。私自身がつながりを作っていかなければならないので、そこが一番心配なところですね。

鹿島 代替わりすると確かにありますよね。
会長は今おいくつなんでしょうか。

鈴木 74歳です。
会長の人脈は会長の年齢前後10歳くらいなので、とにかく人のつながりを大切にされています。「知っている方」ではなく「よく知っている方」という関係性の方がたくさんいらっしゃるんです。

鹿島 鈴木社長がこれから、信頼関係を改めて構築していくという感じですね。

社長になってからの心境の変化

スタッフを守らなければならないという想い

鹿島 社長になると自分で引き受けるとと腹を決めたとき、心境の変化はありましたでしょうか?

鈴木 心境の変化は…必然的に経験を積まされて意識が変わっていった、という感じですかね。会長のそばで会長の働きを見て(会長はこういう動きするんだ)(こういうときはこういう判断なんだ)と感じたというのはあります。
あとは、引き受けると決めたときとはちょっと違うかもしれませんが、現場の移り変わりや新型コロナウィスルの影響も心境の変化としては大きかったのかもしれません。

引き受けないとダメだなと思った一番の理由は、従業員を守りたいという想いがあったからです。

弊社は今、パートさんも入れると430人ほどの従業員がおり、誰かが社長をやらなければならない局面において、このスタッフを守らないといけないのは私なんじゃないか、と思いました。できるかできないかというとできないかもしれない、でもだれかがやらないといけない、と。
私の性格上、やってダメでもとりあえずチャレンジしようというところもありまして。ただ、自分一人ではできないことは理解していました。

助けてあげないと、と笑いながら言ってもらえるように

鹿島 一人でやるとなると、たしかに限界がありますもんね。

鈴木 はい。なので、まずは社内の人に目を向けて、一緒に働ける会社づくりをしようと思って。
社長に就任すると公表した時、スタッフはびっくりしたと思います。「登録ヘルパーからこうなるんだ!」と。でもその中でも3~4年間、会長と動く中でいつか「この人が社長だから助けてあげないと。だってできないもんね。」と笑いながら言ってもらえる立ち位置でありたいと思ったんです。
何かを成功させるというよりも、スタッフを守りたいという想いが強いのかもしれません。「守る」というのは、生活を支える給料はもちろん、育児とか介護とかも含めて、ですね。生活の一部を支える会社でありたいですし、そこをサポートしたいという想いで引き受けようかなと思いました。
ですので、去年の6月社長就任パーティーを開かせていただいたとき、私のこの思いを改めてスタッフには伝ました。

最初に取り組んだことは「意識改革」

鹿島 先代の会長から学んできたものはあると思いますが、引き継いで、一番最初に取り組んだことってどんなことですか?

鈴木 自分の意識を変えていかないとと思ったことが一番取り組んだことかもしれません。
現場を理解できるプレーヤーでいたいと思いながらも、一方では会長が選んだ人なんだと思われるので、行動や立ち振る舞いはしっかりしていかないとと思っております。

鹿島 お話を伺っていると、意識していなくてもできているように思えます。
意識しないと、と思うエピソードがあったとか?

鈴木 スタッフとご飯を食べに行ったり、お茶したりすることができなくなるんです。
ちょっとした悩み事を聞くときも、スタッフがたくさんいるので平等じゃなければならないなと。例えば、「鈴木社長は訪問介護にいたから訪問介護の人とは仲いいよね~。」みたいな気持ちをスタッフに持たせちゃいけないと思ってます。
贔屓しているつもりが無くても、そういう見られ方しちゃうこともありますし。身内みたいに感じる相手にこそ厳しく「これができて当然じゃない?」という気持ちを出してしまっているのかもしれませんね。

鹿島 親と一緒かもしれませんね。子どもを贔屓目に見てしまうからこそ、厳しくしてしまうみたいな気持ちですね(笑)。

社長1年生の今の考え

みんなに頑張ってるねと声をかけたい

鹿島 今、社長になられて約1年が経過しますが、1年やってみて、今はどういう思いがありますでしょうか?

鈴木 一言でいうと、新型コロナウイルスの影響が大きかったので、「大変だった」というのが一番になってしまうかもしれません。クラスターになったり、スタッフがつらい思いをしたり。
そんな中、何ができたかというと、一人ひとりには言えませんでしたがみんなの顔を見ながら「仕事を頑張ってるねー」と言う言葉をかけ続けました。なるべく現場にも入って感謝を伝えたいですし、これからもやりたいことのひとつです。

あとは、これは社長になる前から動いていたことですが、3年ほど前から人事制度を変えました。
年功序列だったものを、クオレとしての経験として役割等級制度を導入しました。スタッフを守るという意味でも、人事制度は正確なものにしていきたいですし、しっかりとスタッフにも伝えていけたかなと思っています。

会長には「頭の中を1回見せてください」とお伝えしています(笑)

鹿島 鈴木社長の人柄が伝わってきます。
最後に、会長へ何かメッセージがあればお願いいたします。

鈴木 会長は普段から情報収集に余念がなく、会長が目を付けたものが2~3か月すると世の中に出てくる、なんてこともよくあるんです。これが、クオレが2~3歩先にいけている理由かなと思っています。
私はいつも、「頭の中を1回見せてください」とか「かみ砕いた情報だけ私にください」なんてことをお伝えしています(笑)。

まだまだ10年先も必要な方ですので、とにかく健康には気を付けてと言いたいですね。あとは、私は死ぬまでここまで働いておりますので、経営ってこうなんだよ、ということはもっともっと教えてほしいなと思っています。

鹿島 健康には気を付けていただきたいですね。
本日は素晴らしいお話、ありがとうございました!

取材協力
財務コンサルタントに聞く
財務コンサルタント 鹿島 圭氏
財務コンサルタント 鹿島 圭
後継者だからこそできることの重要性

元々親御さんがやっている事業や会社には「伝統」があります。その伝統的な商品とかサービス、技術に対して、イノベーションを加えることで今の時流に合ったものになり、価値が変わるのではないか。私はそういう思いがあり、今のこの業務に従事しています。

まだ、親御さんの会社を継ぐか継がないかを決めかねている後継者様も、壁打ちすることで考えがまとまる方もいらっしゃいます。ぜひお気軽にご相談ください。

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