財務コンサルと銀行の違い
銀行が行う事業承継の目的とは
1.新規開拓
都市銀行か、地方銀行かにかかわらず、銀行では、事業承継に関するセミナーや説明会などが、頻繁に行われています。なぜ銀行は事業承継に熱心なのでしょうか?
理由としてはセミナーを開催し、お客さんが来てくれることで、新規開拓ができることが挙げられます。銀行は、新規取引先を開拓し、さまざまな業種の貸出先を多く持つことによって、リスクの分散を図っています。万が一、ひとつの貸出先が事業困難に陥っても、他の貸出先によってリスクをカバーし、銀行自体の経営に大きな影響を与えることを、防げるからです。
2.貸出先の安定化
銀行業において、優良な貸出先を開拓することは、業績アップのために非常に重要です。ただ事業承継セミナー開催の役割は、そればかりではありません。以前から付き合いのある安定的な貸出先を維持することも、銀行自体の経営にとって重要であると言えます。
つまり、既存の貸出先が代替わりせずに、廃業してしまっては困るのです。貸出先の事業を支援し、事業承継がスムーズにバトンタッチすることで、長期にわたり事業継続ができるよう後方支援するのが、銀行の目的であるとも言えるでしょう。安定した収益を生み出す貸出先は、銀行との信頼関係が構築されており、高い返済能力があります。そのため、銀行は返済リスクを最小限に抑え、安定した融資残高を維持することができます。
銀行が提案する事業承継の提案内容
では、銀行が事業承継セミナーで話す内容は、どのようなものでしょうか?ここでは代表的な2つのポイントについて見ておきたいと思います。
資金調達のアドバイス
まずは資金調達に関するアドバイスです。
企業が事業を行う際には、キャッシュフローが必要です。新たな事業を立ち上げる際だけではなく、事業を継続するにもキャッシュが必要です。会社は赤字決算になっても倒産しませんが、資金が枯渇すると、黒字でも事業が回らなくなります。銀行から提案される資金調達プランには、信用保証協会や日本政策金融公庫などとの協調による資金調達の方法や、借り入れ金利の検討、各種補助金や助成金のアイデアなど、実践的な内容が提案されます。
財務戦略のアドバイス
もう一つは財務戦略に関するアドバイスです。
事業承継対策を始める場合には、銀行の金融商品やサービスを利用することがあります。とくに後継者が自社株を買うときの融資額は、大きなものになる傾向があります。あるいは株価対策のために、不動産リースを活用する場合もあります。銀行のグループ企業の傘下には不動産会社もあり、事業提携しているリース会社が存在するケースもあります。
また事業承継を検討していく中で、事業売却という結論になった場合には、銀行内にあるM&A事業部が登場することもあります。一般的に事業承継では、スポット的なキャッシュ需要が発生するため、銀行にとってはビジネスチャンスとなります。株式を担保設定することで、既存の貸し出しに上乗せする形で融資限度額を一時的に増やします。
財務アドバイスにおける注意点
銀行のビジネス優先で、提案がなされる傾向があるのも事実です。たとえば、社長が持つ自社株を売却するよう、強く進められるケースがあります。自社株を売却するのはM&Aではおかしなことではないのですが、度が過ぎる頻繁な要求があり、何かおかしいと感じられたなら、財務に詳しい第三者による公平なチェックを依頼したほうが良いでしょう。
銀行員は事業承継に関してはプロではありません。営業担当者は2~3年おきに人事異動があり、支店を移るため、短期的なノルマ達成に動いてしまう誘因も発生してしまいがちです。
銀行と財務コンサルの違い
財務コンサルは独立系のファームが多いため、ケースバイケースで最適なチームスクラムを組成します。事業承継の悩みが後継者探しなのか、節税対策なのかによって、解答は異なります。さらにそれぞれの企業の特徴によっても、最適解が変化します。ここが、銀行と財務コンサルの大きな違いと言えるでしょう。
事業承継を考えている社長には、現在取引している金融機関以外に相談先を作ることをお勧めします。銀行によって、事業承継対策に対するスタンスが微妙に違うことが分かると思います。重点を置いているのが、節税対策なのか、株式譲渡の法務面なのかなど、銀行の注目しているポイントが見えてきます。アドバイザーとなる財務コンサルや税理士、銀行員の人柄を垣間見ることができるため、相談者としての相性についても、判断できると思われます。
また、相談しているうちに、社長自身の事業承継に関する考え方に、変化が生じることがあります。最終的に良い提案にたどり着くまでに、必要な寄り道だと考えられます。
銀行への相談や銀行主催のセミナーも捉え方が重要です。セカンドオピニオンにとどまらずサードオピニオンなど、納得のいく事業承継対策にたどり着くまで、色々な人の提案を聞くべきです。事業承継というと、最初は経営の譲渡をするプロセスに、目が行きがちですが、本質的に大切なのはより強靭な体質を作るための、ビジネスモデル全体の見直しや再構築ではないでしょうか。
価値を考えるメディア
財務コンサルとは、財務に関するサポートはもちろん、事業承継問題においても企業を総括的に捉え理解した上で、その企業の最適解を提供しています。企業にとって中長期的な戦略が期待できる存在こそ「財務コンサル」と言えます。
当メディアでは、会社を継がせるべきか、会社を継ぐべきか、経営者・後継者それぞれの抱える事業承継問題に対し、財務コンサル鹿島氏に取材協力を依頼。まだ決めきれない事業承継の第一歩、踏み出してみませんか。